「君の名前は?」

このいたずら書きの人物は、私と黒板で文通をしたいのだろうか。今朝、私が返事を書いて半日。昼休みになって、いつものようにここへ来ると新しい質問に書き換えられている。私だけの部屋のはずなのに・・・という思いも強かったが、こんな文通のようなことをした経験は無かったので、少しわくわくする気もした。
相手は誰だかも、男か女かも分からない。この高校の生徒だということは分かっているが、下級生か上級生か、同級生かも検討がつかない。運動部の朝練習の時間には登校しているようなので、部活熱心だということだけは確信していた。

しかし相手が誰で、どんな人かなどということにさほど興味は沸かなかった。私の書いた文の返事が、いつの間にか書かれていることに面白さを感じているのだ。

「佐々原夕。あなたは?」
今朝と同じく赤のチョークで書き換え、私は図書室へ向かった。

図書室で本を二冊ほど借りてまた部屋へ戻った。今日は新刊が入ったらしく、新しいものが沢山並んでいた。今日の午後の授業は欠席するしかなかった。私は手元に本があると、読み終えずに他のことが出来ないという、情けないとも熱意があるとも言える性格だった。
部屋に戻ると、驚くことにものの二十分の間に黒板の文は書き換えられていた。
本を選ぶわずかな時間にも、いたずら好きなこの人はここの部屋へ来たのだ。

「矢野健太」

男の子だったのだと初めて知った。