「海原くん、か。なんか可愛い子だったな」
今思い返してみると、茶色と黄緑のラインが横に一本ずつはいった眼鏡をかけており、とても白い肌にすけて見えた。真っ黒な髪が、とても綺麗に揺れていた。
可愛くて綺麗な男の子。声も高くて、少し間違えれば女の子にもなれそうな大きな瞳。
海原空くん。
そら、という名前に相応しく、何故だか大空を羽ばたけるような、そんな雰囲気だった。
時間を見ると、7時ちょうど。約束の時間にぴったりだ。
和室のドアを開ける。もう誰か中にいても可笑しくはない。
「おはようございまーす」
そろりと中を覗くが、誰もいなかった。
「あれ」
やはり、誰もいない。
まあ、後数分すればみんな来るだろう。






「おはよーう」
「友美!」
一番にやってきたのは、部長の友美だった。
「おはよう」
「おはよ」
もう一度言葉を交わす。まだほかの部員は来ていない。
「あ、ゆず。あんた、さっき空に会わなかった?」
「そら?・・・海原くんのこと?」
友美は海原くんのことを知っていたようだ。
「そう、海原空」
「どうして?」
「どうしてって・・・用事があるから」
少し俯いてしまう友美。何があったのだろうか。
「見たっていうか、さっきまで一緒にいた」
私の回答を聞いて、友美はびっくりしたように目を見開く。
「そうなの?空、どこにいるかわかる?」
「・・・保健室に行くって言ってた」
すると、友美の顔はみるみる青くなってしまった。
「保健室、そういったの?」
「え、うん」
「大変。・・・ゆず、悪いけど私保健室行ってくる」
「ちょ、友美!」
叫んだのはいいものの、友美はものすごいはやさで部室を出て行ってしまった。
保健室は二階にあるので、ここからはとても近い。
私は好奇心に煽られ、部室を後にした。
「友美!」
保健室につくと、そこには海原くんと友美がいた。
「楠・・・」
「っ!」
見ると、友美は海原くんに抱きつくようにしてその、彼の小さな体の上に乗るような体制をとっていた。
「とも、み?ちょ、重い・・・やめ、」
「空」
友美からは聞いたことのないような、甘い声が出ていた。
「友美・・・友美。どうしたの?海原くん?」
「楠」
「海原くん・・・」
「友美が・・・友美が」
友美は苦しそうに体を動かす。
「友、美?」
私が声をかけると、友美はこちらを見て、そのまま目を閉じた。
「・・・・・楠、先生呼んできて。こいつ、寝不足で寝てるわ」
「ね、寝不足?」
「ああ。はやく」
さっきの深刻さはどこに跳んで行ったのか。私はどこかおいて行かれた気がして、ふらふらとその場を去り、先生を呼びに行った。