「またそれ見てんの、佐倉」
「はい!何度見ても飽きないです!」
“少女は今…”だった。
くったくない彼女の笑顔。
本を読んでいる佐倉が、一番可愛いと俺は思う。
「好きな場面読んで!」
「そーですね………。」
佐倉は、慣れたようにスラスラとこう言った。
「“少女は、丘の上にいた。誰もいなかった。少女は怖くて、足をひねるくらい一生懸命走った。丘の明るい色に、自分の暗い色が混ざるのが怖かったのだろう。”…ってとこですかねっ」
本当に佐倉は、本が好きなんだな。
本気で思った瞬間だった。
「そうなんだ…」
「見たいですか!?」
嬉しそうな顔でこちらを見た。
でも、俺は本が苦手だ。
「……俺はいーや」
すると、佐倉は頬を膨らませ、
「もうっ」
と言った。
可愛すぎて困るほど可愛い。
だから、思わず聞いてしまった。
「佐倉…ってさ、
好きなやつとか…いんのか?」
俺は黙って返事を待つが、
返事はない。
…怒らせたか?
「わりぃ、佐倉。気にしないで」
質問に答えないより、
嫌われるのが嫌だった。
「いますよ…」
「…え?」
「います。好きな人」
予想外だ。