苦く甘い恋をする。

それというのも、受付として私が勤める機器メーカーの本社では、誰もが……というくらい皆が私を狙って、日々争奪戦を繰り広げている。


それなのに、コイツは、それを傍観する唯一の男。


おまけに気に入らないのは、同期はもちろん、先輩達も、私のことを『美姫ちゃん』と呼ぶのに、コイツだけは呼ばないということ。


上司や役員だって、私にだけは“ちゃん付け”をするというのに。


私には、それが許されて当然なくらいの美貌と人気があるというのに。


この男だけは、あたしに跪くこともひれ伏すこともなく、淡々と『奥脇さん』と名字で呼ぶ。


その距離感が、その態度が気に入らなくて、私はずっと長谷川くんとは距離を置いてきた。