そう言いながら、篤は雅也の隣にすっとおさまった。
「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着きなよ」
どこまでもマイペースな篤と、深い溜息を落とすあたしの間には、どう頑張っても越えられない価値観の壁がある気がする。
ここで働いてるお姉さんが2人いるってことは、篤の両親の中には、少なくとももう1つは、店を作る計画があるに違いない。
そんなことができるくらいお金を持ってるとしたら……
演劇に夢中になることにも、あたしを雇おうなんて発想が生まれてくることにも、何となく納得できる気がする。
「篤って3人兄弟なの? ここはお姉さんのお店だって聞いたけど」
空気の重さを感じたのか、晴香が慌てたように口を開いた。
「いや、5人だよ」
「5人!?」
「うん。咲と紬が双子で、そのしたが光[みつ]。その次が葉[よう]。光の仕事はよくわからないけど、どっかで会社員してる。一人暮らしだからあんまり会わないけどね。
葉は俺の2個上なんだけど、最近いきなり子どもができて結婚した」
自分の他に4人もお姉さんがいたら、家の中ってすごく賑やかになるんじゃないだろうか。
一人っ子のあたしには上手く想像ができないけど、何だか楽しそうで、少し羨ましい。
「だから、実家で一緒に暮らしてるのは咲と紬だけなんだよ。2人だけでも十分うるさいんだけど」
「せっかく時間作ってあげたのに、“うるさい”ってのは失礼なんじゃない?」


