「さっきも言ったけど、ここは篤の両親が経営してる美容院の姉妹店だよ。姉妹店って言っても、店は全部で3つなんだけどね。お母さんの店と、お父さんの店と、ここ」
「ここは誰が?」
「ここの店長は一番上のお姉さんの咲[さき]さん。副店長が双子の妹の紬[つむぎ]さん。
俺も篤に紹介してもらって来たことあるけど、こんな部屋に入ったのは初めてだわ」
雅也の話に軽く頷きながら、改めて部屋の中にぐるっと視線を送る。
壁にかかった上品そうなバラの絵も、ぽきっと折れちゃいそうな針が気になる格好良い時計も、普段のあたしの生活とは無縁の世界の物だ。
仮にあの時計をあたしが持って帰ったとしたら、おじいちゃんなんてびっくりして腰を抜かすんじゃないだろうか。
「ここに来たってことは、今日のバイト代はカットの代金ってことなのかな?」
「へ?」
顎に手を当てながらさらっと放たれた雅也の言葉に目を見開くのと同時に、トレーに紙のコップを4つ乗せた篤が部屋のドアを開けた。
「ちょっと! あたし、髪型変えるなんて聞いてないんだけど!」
マイペースにコップを並べる篤がぽかんとした表情であたしに視線を送る。
「うん。言ってなかった。ごめん。もうすぐ咲か紬が来るから、いい感じにしてもらって」
「そんな簡単に言わないでよ!自分のこと知ってほしいって言ってたんじゃなかった? それがどうして髪型変えることになるわけ?」
「いや、ここ咲達の店だから。俺に姉ちゃんいるってわかったでしょ?」


