いきなり聞こえたフルネームに思わず肩を固める。
もう一度さっきの方向に顔を向けると、出ていく人の波に逆らって歩いてくる篤が見えた。
白いカットソーと黒いダウンのベストが、その中でも何となく目立ってる。
……こんな時期に、ベストなんて来て寒くないんだろうか。
あたしには考えられない服の選択の仕方に、少しごろっとした感覚が広がる。
「やっぱり、説明する時間はなかったみたいね」
「え?」
ぼそっと呟く晴香を見て首を傾げる間に、篤がぐっと傍まで近づいてきていた。
「お昼に学食行く時間はなさそうね。コンビニで適当に買って、次の教室で食べよ。篤も一緒に来るでしょ?」
「あ、うん。晴香ちゃん、よろしく」
初めからこうなることがわかってたのか、晴香の態度はいつもと全く変わりがない。
そんな晴香に当たり前みたいについていく篤も篤だ。
「はぁ……」
最近、溜息を吐くのがくせになってる気がする。
何を言っても無駄なんだろうな……。
そう思って、あたしは大人しく、2人に従った。


