「いや、別にそんなんじゃないけど……。
金銭面で考えたら、ベンチャーみたいな会社は考えなかったの?その方が給料も良さそうだし、将来的にもらえる金額も多くなるんじゃないかとも思うけど……」
「なるほどね。篤の言うことも間違ってないんじゃない?
発展途上ってゆーか、勢いある企業はキツい仕事の代わりにたくさんお金をくれるってイメージもあるし」
「まぁ、晴香の話もわかるんだけど。ベンチャーみたいな博打に手を出せるのは、資金のある人だけでしょ。凡人未満のあたしにはできない」
「凡人未満?」
あたしのとは比べものにならないくらい、低いトーンで響いた声に、思わず肩をすくめる。
「と、とにかく!勘違いしたらそこで負けなの。確実に、自分の身を守っていく方法を考えないといけないの。
だから、これ以上いろいろ口出ししないで。さよなら!」
「は?ちょ、ちょっと!美砂! またぁ!?」
不満そうな晴香の声を背中で聞きながら、あたしは駅の方へ足を進めた。
サークル棟の前を通り過ぎる時に目に入った窓の奥には、結の人たちが何かを話し合ってるのが見える。
視界の端のそんな光景を通り越した。
「何か……、ぐるぐるする」
小さく呟いて、そのまま駅の改札を抜ける。
定期券をかざした時の機械音が、妙に耳の中に響いて変な感じがした。


