『サークル棟の1階だよ。床が白くて、たぶん窓は開けっ放しになってると思う。
小学校なんかの教室みたいな部屋を想像してくれれば、すぐに見つかるから』




説明会の資料を持った人達が入ってくるのを横目で見ながら、晴香とあたしは教室を出た。


背中を押してくれた雅也の声を頼りに、普段なら絶対に近づかないサークル棟を目指す。



サークル棟は、ざっくり文理の2つにわけられた敷地の、文系側にある。


そうは言っても、駅から近い方に立てられてるから、理系側の人達にも気を使った結果なんだろうけど……。



いろいろな実験道具のそろった研究室を作るのには敷地が必要だったから、サークル棟を建てられる場所が文系側にしかなかったんだ、っていう少し腹の立つ説明なら

何となくだけど噂で聞いたこともある。



駅の裏手にあたるその場所には、5階建ての少し古びた棟を覆うように、背の高い木が何本も生えていた。



「美砂には新鮮なんじゃない?サークル棟」


「うん。普段来ないからね。晴香は部室があるんだよね?」


「そ。いろんなテニサーが合同で荷物を置いてるの。気付いたらボールが減ってたりするから、管理が大変なんだけどね」


苦笑いをしながらそう言うと、晴香はなれたようにサークル棟に足を踏み入れた。


ガラスのドアが左右に開き切った棟は、段ボールやよくわからないチラシの残骸でごちゃごちゃしてる。



「1階で小学校の教室みたいな部屋ってことは、たぶんあっちだと思うんだよね……」



独り言のように呟いた晴香の声と背中に従って、初めての空間をゆっくりと進んだ。


上の階からは、よくわからない楽器の演奏や歌声が自由すぎるくらいに降って来る。


それを上手くかわしながら、薄暗い廊下を少し入った所で晴香の足がピタッと止まった。



「ここみたい」