「お、シンデレラじゃなくて、眠り姫だった?」


「え?」



“シンデレラ”

少しだけトラウマになりかけてるその言葉が聞こえて、思わずがばっと振り返った。



「あ、雅也!」


「びっくりしたー。何でこの教室に?」


「これから就活の説明会があるんだよ、ここで。オリエンテーションって言うから、一応出ておこうかなって」



そう言いながら後ろの席にぽんっと鞄を置いた雅也を見て軽く頷いた。


ジャケットの下に青系のシャツをさらっと着こなす辺りは、やっぱりスマートに見える。



「えらいんだね。アイツは一緒じゃないの?」


「あぁ、篤はサークルだよ。アイツ、演劇バカだから」



爽やかに笑いながらそう言うと、雅也はそのまま席に着いた。



「信じらんない。隣にこんな真面目な人がいるのに、自分は遊んでられるなんて……。危機感なさすぎでしょ」



そう言ったあたしに向かって、晴香が思いっきり冷たい視線を向ける。



「まぁ……それが篤のいいところでもあるんだけどね。なかなかいないよー。あそこまで1つのことに打ち込めるヤツは」



そんなあたし達を見ながら、雅也がまた小さく笑った。


少し影の落ちる視線の先で、同時に鞄のチャックの開く音がする。



「俺なんて、逆に羨ましいくらい」


「え?」