俺のシンデレラになってくれ!


「ある意味そうだろうな」


「究極にポジティブな考え方よね」


「1回そういう思考に慣れると、新しい考え方ができなくなるんだよ、きっと。実用的じゃない服を選ぶような思考回路が埋もれんの。
それで、自分では現状を打破できなくなる。もしも不満があったとしても、現状維持が一番いいんだって思い込むようになってさ」



何となく目の前のカップを手に取って、傾けた。


少しだけぬるくなったココアは、甘さが増した感じがして得をした気分にさせてくれる。



「シンデレラが脱げたガラスの靴を拾わなかったのは、変身がとけて問題になりそうだったからってだけじゃない。
あの靴が、シンデレラの日常に必要のないものだったからなんだよ」


「ガラスのパンプスなんて、シンデレラの日常から考えたら実用性は皆無だろうな」


「そう。だから、あそこで見捨てても平気だったんだ」



納得したように、とんっと頷いた篤を見て、あたしはカップを置いた。



見せてもらった絵本のシンデレラじゃない。


見せてもらった映画の中の、暴れまわるシンデレラでもない。



これは、篤の中に出来上がってる、篤が好きな、お人よしのシンデレラから膨らんだイメージだ。


『シンデレラ』


そのたった1つの短い童話の話がここまで広がっていくなんて……。


それこそ、あたしにとっては日常でも実用的でもない。



「うん。やっぱりシンデレラは面白いなー」


「あれ?だけど、篤の好きなのって、頑張って努力して舞踏会に参加した、アクティブなシンデレラ像じゃなかったっけ?」