「ありがとうございます。是非ご利用下さいませ」
あたしだってマフラーを巻きたいし、手袋だってしたい。
どうせなら、コートだって着たい。
「いらっしゃいませ」
きっと、あたしがここに立ってから、まだそんなにも時間は過ぎてないと思う。
でも、真っ赤になった自分の掌を見ると、少し気分が落ち込む気がした。
「ただいまクーポン券を配布しております。暖かい商品もございますので、是非お立ち寄り下さい」
そういえば、お昼休みに見た“結”らしき人達も、こんな風にチラシを配ってたっけ……?
寒い中で同じようなことをやってるのに、お昼に見た光景と自分の状況に途轍もない差があるような気がして、少し可笑しな気分になった。
「……あのー」
「はい?」
後ろから聞こえた遠慮がちな声に、思わず普段と変わらないような気の抜けた声を返した。
ヤバい。
そう思いながら振り返る。
見上げたところにいたのは、学生風の男の人だった。
重ね着したジャケットとパーカーがあったかそうで羨ましい。
ゆるいパーマのかかった茶色の髪を小さく揺らして、男の人はぱっと微笑んだ。
「クーポン、いただけますか?」
「はい。ありがとうございます!期限まで1ヶ月程ございますので、是非ご利用下さい」


