「わざわざそんなこと?」
「大事なことよ。公務員目指してるんだったら、相手に合わせて相手の気分損ねないように対応する方法も勉強しなさい」
ふざけたようにそう言った晴香は、さっきの話を掘り下げるつもりはないみたいだ。
何を気をつければいいのかわからないから、せっかくの忠告も無駄になっちゃうと思うんだけど……。
でも、わからないことが多すぎて、あたしから聞くのも面倒な気がする。
ここで聞かずに終わる辺りが、“省エネ”なんだろうな。
そんなことを考えてから、自分たちが階段を降り始めてることに気付いて顔を上げた。
「晴香?次の授業って4階じゃない? 何で上の階じゃなくて下?」
無言で足を動かしていた晴香が、じとっとした目であたしを見た。
可愛い格好をしてるくせに、平気でこういう表情をする晴香はちょっと面白い。
「美砂、次の授業が休講になったってこと、忘れたの?」
「え? 休講!?」
「先週連絡あったし、あたしも授業の後で言ったはずだけど?寝ぼけてて聞いてなかったんでしょ」
次の授業が休みってことは、今日はこれで終わりだ。
まだ暗くもなってないこの時間は、家に帰るには少し早い。
「……バイト入れれば良かった」


