俺のシンデレラになってくれ!

あたしが働くこの店は、駅ビルから続く真っ白な大きい階段を下ってすぐの位置にある。


近くには他のファーストフード店もコンビニもたくさんあるし、バス停もあるから、店の前の少し広めの歩道はいつも人通りが多かった。


ドアの横に置いたメニューボードのそばに立って、もう一度大きく息を吐く。


背中を向けてるからよくはわからないけど、きっと店の中から店長があたしの様子を見張ってるはずだ。


ゆっくりと瞬きをしてから、あたしはお腹に力を入れた。



「いらっしゃいませ」


「ただいまクーポン券を配布しております。本日からお使いいただけますので、是非ご利用下さいませ」



思い付く限りの言葉と一緒に手を差し出すけど、受け取ってくれる人は多くはない。



「期間限定のあたたかいメニューもご用意しております」



視線を合わせてくれる人がいれば、まだ救われる。



「こちら、クーポン券でございます。よろしければどうぞ」



ほとんどの人は、あたしに見向きもしない。



「いらっしゃいませ。是非お立ち寄り下さいませ」



そりゃそうか。

街でよくチラシとかティッシュとかを配る人も見るけど、あたしだってその全部をしっかりもらうわけじゃないし。


今のあたしみたいな人間も含めて、“駅前”の光景なんだ。



「いらっしゃいませ。クーポン券です」



歩いていく人と違って、半そでのシャツの上に冬用の制服のパーカーをはおっただけのあたしの体は、すでに完全に冷えていた。