そのあとの言葉を、ヤスオちゃんは一生懸命探していた。黙っているのは、申し訳ないって、必死の様子が可愛いなあって思った。私は言葉に出してお腹から出したらすっきりしていたから、余裕でヤスオちゃんを見れた。

 だって、ヤスオちゃんから「俺も好きだ!恋人とは別れる!待っていてくれ!」なんて臭いセリフを期待していたんじゃないんだもん。ヤスオちゃんならきちんと受けとめてくれるって信じた。
 
 だから言えたんだ……
 
 そう……私ははじめて大人を信じてみることができた。
 
 裏切られることも怖くなかった。それに、ヤスオちゃんはそんなこと絶対にしないって、確信があった。


 ヤスオちゃんは、戸惑いながら、悪戯っぽく私を見つめた。ちょっと、すがるようだったから、情けねえ……!!って思った。

「先生、あのね……」

「あん?」

「ずっと、そのまんまのヤスオちゃんでいてね」

「ああ……」

「だって、私、ヤスオちゃんはスキだけど、先生ってまだ好きになれないか
ら……」

「俺はどっから見ても、スゲエ良い先生だと思うよ」

「じゃあ、言ってあげる」

 私は息を吸い込んで、大きな声で言った。

「先生、 キライ!」

 

 私は心の中のグチャグチャを全部、ヤスオちゃんにプレゼントしたような気持ちになって、不思議な満足感で満たされていた。

 涙で乾いた、カパカパの頬が笑うとバリバリって音がした。

 ヤスオちゃんにペコリと頭を下げた。

 それから、ヤスオちゃんをおいて教室を出た。

 ずんずん歩くうちに、景色がぼんやり滲んでいた。

 そうだ、ピアスでもあけてみようかと、ふいっと思った。
     
 ヤスオちゃんの困った顔がみたくなったから。



                   おしまい