春、恋。夢桜。

「でも、今日は本当にどうしたんじゃ?まだ夜ではないし、いつものじゃーじとやらも着ておらぬではないか」


『ジャージ』はまだ、覚えたばっかりの言葉だ。

そのせいで、カズハの発音はまだ覚束ないみたいだった。


それでも、一生懸命に話すカズハがどこか可愛くて、俺はまた少し笑った。


「今日はジョギングをしてきたわけじゃないんだよ。まぁ、また夜にはするけどさ」

「そうなのか!では、今日はキョーに2度も会うことができるんじゃな?」

「あぁ、そうなるな」

「よしっ!では、昨晩の分までたっぷり話を聞いてもらうぞ!」


そう言って幹の近くにいつものように座ろうとしたカズハは
何かを思いついたみたいにぴたっと止まった。


「どうした?カズハ」


少し背を曲げてカズハの顔を覗くと、にやっと笑ったカズハが、俺に顔を向けた。


「キョー、今日はせっかく昼間なんじゃし、上に登ってみんか?」

「上?」


カズハの言う意味がわからなくて、俺は思わず眉間に皺を寄せた。


そんな俺を見て笑ったカズハが、いきなり俺の左手を両手で包む。