春、恋。夢桜。

 

「梨恋……。お前、まだ友達がいないんじゃないか?」


梨恋は、母親や父親に「友達はできたか」と聞かれる度に、笑顔で頷いてた。


授業中に先生に誉められたことを一緒に喜んでくれた、みたいに話してたこともあったはず。


「……い、ない、よ。話し掛けても、みんなどっか行っちゃうんだもん」

「じゃあ、家で話してたことは?」

「……嘘。
先生に誉められて嫌なこと言われたり、体育で早く走るといじわるされたり、……そんなこと、言えないもん」



『言えないもん』


自分にも痛いほどわかるその言葉が、とてつもなく辛かった。


本当は、親にでも、先生にでも、その辛い気持ちを打ち明けて、助けてほしかったんだと思う。

楽にしてほしかったんだと思う。


自分にはまったく関係のない理由で転校させられて、恐ろしく理不尽な理由でいやがらせをされる……。


転校生で、勉強も運動もそれなりにできる梨恋だから……

小柄な梨恋だから……


たぶん標的にはしやすかったのかもしれない。