春、恋。夢桜。

そこには、黒い線だけで描かれた絵があった。


1本1本丁寧に描かれた線がやわらかく、優しい印象を受ける。


そんな部分も素敵だと思う。

でも、俺が足を止めた理由はそれじゃない。



そこに描かれたのが

桜の枝の上から、下を見下ろした風景だったからだ。



しかも、今はない、月美丘の桜の枝から……――――



俺は、カードを探そうと必死で絵の下を探した。

でも、それがどこにも見つからない。


諦めて1歩絵から離れると、後ろからこつん、こつん、と静かな足音が聞こえた。


「その絵は私が描いたものなんですが、気に入っていただけましたか?
作品のカードをつけ忘れていて、今持ってきたところなんです」


ゆっくりと進んできたその人は、俺を見ることもなくカードを取り付けた。



『1年 月美 麗華 「夢桜」』



話し方や服装は違うけど、声も背丈も、麗華そのままだ。


「麗華……?」


静かにそう言うと、彼女はそっと振り返った。


「久しぶり。……響」