春、恋。夢桜。

仕返しをしてやるつもりで、俺は麗華の頭をぽんぽんと撫でてみた。


麗華は、これが相当お気に召さなかったらしい。


わかりやすく膨れっ面になると、麗華は俺の手を勢いよく払った。


「何するんじゃ!まったく……」


そう言って腰に両手を当てる麗華が面白くて、俺はまた笑った。



『麗華、そろそろですよ』


突然聞こえたその声に、俺達は2人揃って上を見上げた。


でも、上を見ても黒い空間が広がるばかりで

声の発信源だと思われるような所は1つもない。


「紅姫様の声じゃな」

「え?あれが?」

「あぁ。この夢を響に提供したのは紅姫様じゃ。
たいむりみっとが近づいたら声を掛けるから、それまでに何とかするようにと言われた」


そう言うと、麗華は腰に当てていた手を下ろして、にっこりと微笑んだ。


さっきまでの不機嫌そうな顔はどこいったんだよ……

そう思うくらい柔らかい表情を見ると、こっちまで頬が緩む。


「響。もうすぐ、またこうして会うことはできなくなる。
でもわし等はまたきっと会えるはずじゃ。

じゃからって、わしは何か気の利いた台詞を言えるわけじゃないのじゃが……」