春、恋。夢桜。

「そう思うには、わしには大切なものができすぎたんじゃ。

大切なものができると、人間だけでなく、妖精も弱くなってしまうんじゃろうか。わしは、そんな弱くはなりたくないんじゃがな……」


麗華は、まっすぐに俺の目を見つめた。


「わしは、どんな状況になっても、その時に自分にできることは精一杯やりたいのじゃ。

落ち込んだり、喚いたり、泣いたりするのは、できることを全部やりきって、それでも駄目じゃった時で良いと思っておる」


一歩だけ、麗華が俺に近づく。

そのまま、躊躇うことなく俺の顔を覗き込んだ。


「響。お主、わしに隠しておることがあるじゃろう?なんじゃか、いつも以上にぼけっっとした顔をしておるしのう……。

言いたいことがあるならはっきり言え!響の分際でわしに隠しごとをしようなんざ、生意気すぎるんじゃよ」


にやりと口元を動かす麗華の表情に

また少し、懐かしさを感じた。


実際にはほんの少ししか離れてなかったのに……


二度と触れられないと思ってたこの空気を感じられたことが、ものすごく嬉しい。


今まで、俺も麗華も、お互いに何かをごまかして話すことなんてなかった。


今だって、俺の曖昧な発言とは違って

麗華の言葉は、全力の、本物の言葉なんだろう。


「そうかよ……。じゃあ、言いたいこと全部、言わせてもらうぞ」