春、恋。夢桜。

本当は、自分の今の状況を麗華に知られたくないだけなのかもしれない。


人と話すことも

誰かの話に耳を傾けることも

勉強をすることも


何をすることも億劫な今の自分のことを、麗華に知られたくないだけなのかもしれない。


こんな風にしか生活できてない自分が

情けないことも、恥ずかしいことも、よくわかっているつもりだから……。


「そうか。それなら良いのじゃ。なら……月美丘の様子はどうじゃ?」


麗華が少し聞きづらそうに、静かに言った。


「月美丘は……今は立ち入り禁止になってるよ。ホテルを作るために、工事してるんだってさ」

「そうか……」

「麗華。お前、桜が切られることは知ってたのか?」


今まで不思議に思ってたことを、俺は思い切って聞いてみた。


工事に携わってた人達は、きっと俺がいなかった時にだって、何度も月美丘に訪れてるはずだ。


しかも、麗華の姿は彼等から見えてなくても

麗華は彼らの姿も、会話も聞ける。


「知っておらんかったと言えば、嘘になるじゃろう。
じゃけど、知っておったと言うのも、どこか違う気がするのじゃ」

「どういう、意味だ……?」