春、恋。夢桜。

紅姫様は、わしの頭にそっと手を乗せた。


その手が、とてもあたたかくて……

わしは思わず泣きそうになった。


「いや。わしのことを考えてくれたのじゃろう?感謝しておる。
じゃが、わしが本当にそのセリフを言っていたとして……。どうしてそれが、桜の精になることの決定要因になるのじゃ?」


ほんのりと、その理由はわかった気がした。


じゃが、わしはそれを、紅姫様の口から直接聞いてみたい。


「そうですね。あなたが他人を思う気持ちが、花の精が役目を授かった理由と同じだったから、ですよ」


やはり、聞いて良かったかもしれぬ……


紅姫様の言葉が、嬉しくて仕方がない。


確かに、わしの記憶にないわしの過去は、辛いものじゃった。


もしも、人間という存在に対する愛しさが少しもなければ

わしはきっと取り乱しておったじゃろう。


もしも、紅姫様が花の精のまとめ役でなかったら

わしは怨霊にでもなっていたかもしれん。


「ありがとうございます。紅姫様。本当に、感謝しておる……」


わしはゆっくりとそう言った。

聞いた紅姫様は、静かに笑う。


「では、次はあなたの今後について考えねばなりませんね」