「あなたはもちろん知らないとは思いますが……。
あなたの言ったセリフが、町の人々の間で話題になっていたそうですよ」
「それは、どんなセリフだったのじゃ?」
わしは、気になって紅姫様を促した。
「町の人々の話では、
『ここで暮させてもらったことは、本当に感謝しておる。じゃから、お父様が困っておるのらなば、わしは力になりたいのじゃ』
と言っていたそうです。
『正直に言うと、この家で過ごしていて楽しいことばかりではなかった。
じゃが、ここまでわしを育ててくれたお父様の役に立てるならば、それでお父様が幸せになれるのならば……、それで良い。
それがわしの幸せなのじゃ』
と、涙を絶え間なく流しながら……。
このセリフを聞いた時に、麗華を桜の精にしなければならないという使命感が、あたくしの中で生まれました」
紅姫様の笑顔は、今までに見たことがない程までにうるわしくなった。
「ですからね、麗華。あたくしはそれから、必死で人間を花の精に生まれ変わらせる方法を探しました。
そして、実行したのです」
「じゃが、その記憶が何故、わしにはないんじゃ?」
「そうですね……。それを他の精に知られるのはあまり良いことだと思わなかったからです。
だから、あたくしはあなたを1人にしました。でも、そのせいであなたには辛い思いをさせてしまいましたね。ごめんなさい、麗華」


