「全ての花の精は、自分の出生を覚えています。

まず、種が大地と触れた瞬間に、あたたかな空気に包まれ、芽が出る頃には視界がだんだんとはっきりしてくる……」


全ての花の精が……?


「茎や葉が成長し、それらが伸びきった頃、彼等は各々のスタイルを確定し、それからは役目に専念します。
その流れを、皆は覚え、それを花の精同士の1番の話の種とするのです」


じゃが、それは……―――


「これは妖精の中でも、花の精にしかない特徴ですけどね。それ故に皆、誇りに思っているのです」

「じゃがそれは……。わしには……」


それは、わしにはわからぬ……―――


「わしは、自分の出生を覚えておらぬ……」


わしは、気づいたら月美丘の桜に就いておった。

生まれた時の感覚など、何も残ってはいない。


わしは、1人ぼっちじゃったたけでなく

皆と同じ誇りさえもも持てぬと言うのか……?


「それは……、当たり前のことなのです」

「え?」


少しためらいがちにそう言った紅姫様を、わしはただ、見つめた。


「麗華。あなたはもともと、花の精ではなかったのですから……」