春、恋。夢桜。

「わしにもよくわからんのじゃが……。

わしが人間と直接話したり、交流したりするにはいくつかの条件が必要らしいんじゃ」


さっきまでとは打って変わった静かな表情で、カズハは月を見上げた。


その横顔は本当に優美で……

月の光に照らされた黒髪は、何だか幻想的だった。


「まず第一に、満月の夜に出会わねばならぬ。
第二に、其奴が横しまでない未成年でなければならぬ。

第三に、其奴は一人でこの桜のもとへ来なければならぬし、第四に、わしにとって其奴が初めて“出会う”人間であらねばならぬのじゃ。

わしはずっとここで生活しておるが、条件を全て満たす者はキョー以外に一人もおらんかった。どうじゃ?すごいと思わぬか?」


「……ここで、どのくらい生活してるんだ?」


「さあな。わしにもよくわからん!

皆が着物を普段から着ておる頃も、飛行機に乗って爆弾を落としておる頃も、わしはここにおったぞ」


軽く笑いながら言われた言葉とは対称的に、カズハの顔は少し強ばってる気がした。


話の流れから考えて、カズハはここで、数百年は1人で生活してるはずだ。


周りに知り合いが1人もいない状況で、そんなにも長い間暮らすなんて……。

きっと、ものすごく淋しいはずだ。


カズハのことを、初めは疑うことしかできなかった。

でも、少しくらい信じてみても良いのかもしれない。

不思議な着地も、妙に世間知らずなところも

話し方も、服装も、カズハの話を軸に考えれば、一応だけど納得できる。