春、恋。夢桜。

戸崎はそう言いながら軽く笑ったけど、すぐにまた真面目な声で話し始めた。


「町のみんなはショックだったよ。結構大切に思ってた桜が本当に可哀想な姿になってるんだからな。

それから俺達の中では、桜に近づかないってのが暗黙の了解になった。近づいてる奴を見たら、注意もしてたな」


ギィイ、と椅子を回転させる音が響く。


「願掛けをすれば願いが叶うとか、桜の精がいるとか、人を引き付ける噂はいろいろあったけどな……」

「そうか……」

「桜がなくなったのは悲しいけどさ、変な話、俺は少しほっとしてる部分もある」

「え?」


俺はつい、体を戸崎の方に向けた。


「なくなった……ってことは、もう傷付くことがないってことだからな」


戸崎は、少し目線を下に向けて言った。

その目がどこか淋しそうに見えたのは、気のせいじゃないと思う。


「で?響が変になってる原因はあの桜なのか?」