「ここにホテルを作るメリットはあるんですか?
すでに観光地として認められている地域ならまだしも、未開拓の土地に観光施設やホテルを作っても、その事業が成功するとは考え難いんですが……」
「なるほどね。なかなか賢いんだなぁ、君。確かにそういう意見も考えられるよ。
でもね、澄月町の近くの市に大きめの遊園地と動物園があるだろう?」
「そうなんですか?まだ引っ越してきたばかりなんで、詳しいことはわからないんですけど」
「あそことの提携ホテルって形で作れば十分な利益が考えられるんだ。
しかも、丘の上からなら眺めも良いからね。きっと人気になるよ」
いや、それでも……――――
「じゃあ、ここの桜を切ったのは何故です?」
眼の前には、自分の仕事を楽しそうに語る眼鏡の男がいる。
きっとこの男にとって、この仕事はとてもやりがいのあるものなんだと思う。
でも、俺にとっては……
「丘の上はそんなにスペースがないからね。初めは桜を活かした建物の設計も試みたんだけど、結局難しくて……。
この土地は町長が住民に公開してた町長の私物だから、彼に許可をもらって桜は切ることにしたんだ。
それに、あの桜は綺麗だったけど、名物と言うには少しインパクトに欠けていたし……」
「中田!こんな所で無駄話なんかしてる暇はないだろうが!」
少し離れた所にいた大島が、大声で怒鳴りながらこっちへ戻ってきた。
「すみません!……あれ?大島さん、何ですか?その鞄……」


