車がゆっくりと止まり

 顔を上げると

 先輩のマンションの前の道路だった。





「こンのバカヤローがっ!!!!」





 !!??



 静かだった車内に

 印南先輩の怒声が響いた。



 震えていた身体が

 ビクッと、更に縮こまる。





「よりによって何でアイツなんだよ……」





 その声は、今日出会った

 誰よりもコワくて





「……っ」





 先輩は

 ハンドルに寄りかかり

 ずっと前を見たままで

 怒りを静めようとしている横顔が



 コワい

 怖い……。



『ごめんなさい』も

『ありがとう』も言う前に

 アタシは

 震えたまま涙を流した。



 今の先輩の声で

 飽和していた緊張が

 一気にあふれ出て止まらない。



 コワかった

 怖かった

 コワカッタ……



 シートベルトを外す音

 空気がゆらいで





「千川……」





 !!??




 気が付くと

 印南先輩の胸の中に

 苦しいくらい強く

 抱きしめられていた。