柾彦は、館内に消えていく祐里の姿を眩しそうに見つめて、
儚(はかな)げな桜の花弁の様でもあり、可憐な白百合の様でもある祐里を
ますます可愛く思った。
しばらくして、柾彦は、立派な風格のある旦那さまと祐里が一緒に絵画を
見ている姿を遠くから見つめた。
旦那さまは、祐里をゆったりとした微笑で包み込み、目の中に入れても
痛くないといった様子を見せていた。
それに応えて、祐里もしあわせ溢れる笑みを返していた。
柾彦は、噂に聞くと本当の娘ではないらしい祐里が旦那さまに大切にされて
いるのが分かり、何故だか嬉しく感じた。
「綺麗な方でございますわね。桜河のお嬢さまでしょう」
気が付くと柾彦の後ろに意味ありげな笑みを浮かべて母の結子が立っていた。
堅物(かたぶつ)の柾彦が女性の姿を瞳で追っている様子に成長を見ていた。
「母上、いつの間に」
ドキッとして、柾彦は、振り返った。
「柾彦さんが見惚れていたから、しばらくそっとしておいたの。
恋愛に堅物の柾彦さんでも恋する年頃なのね。
あれほどのお嬢さまなら恋をしないほうが無理でしょうけれど。
伯母さまに知れたら大騒ぎになってよ。お気をつけあそばせ」
「そのようなことではありません。
図書館で棚から本を取って差し上げただけですよ」
柾彦は、慌てて結子に返答した。
「さようでございますか。鶴久病院も家柄としては申し分ありませんけれど、
桜河のお嬢さまをお迎えするには恐れ多くて自信がございませんわ。
でも、桜河さまとお近づきになれたら、病院の格も上がり大きくできますわね。
我が家には何時連れていらっしゃるの」
結子は、柾彦をからかうように話した。
「だから、そのようなことではありません。
先日の昼食会で少しお話しただけです」
柾彦は、否定するつもりが口を滑らせて祐里との縁(えにし)を語って赤面した。
「まぁ、いつもは昼食会なんて時間の無駄だとおっしゃって出たことが
なかったのに……初恋は人を変えるものなのね。
あのように綺麗な方に看病していただけたら病気なんて、すぐに治りそう。
鶴久病院は、名病院と評判になりますわ」
「母上、ぼくは、今でも堅物ですよ。
さぁ、そのような絵空事よりも、伯母さまがあちらでお呼びですよ」
柾彦は、もう一度、祐里の姿を見つめ、結子の口を塞いで急き立てるように
伯母の側に歩いていった。
結子は、柾彦の微笑ましい恋心を喜んでいた。
儚(はかな)げな桜の花弁の様でもあり、可憐な白百合の様でもある祐里を
ますます可愛く思った。
しばらくして、柾彦は、立派な風格のある旦那さまと祐里が一緒に絵画を
見ている姿を遠くから見つめた。
旦那さまは、祐里をゆったりとした微笑で包み込み、目の中に入れても
痛くないといった様子を見せていた。
それに応えて、祐里もしあわせ溢れる笑みを返していた。
柾彦は、噂に聞くと本当の娘ではないらしい祐里が旦那さまに大切にされて
いるのが分かり、何故だか嬉しく感じた。
「綺麗な方でございますわね。桜河のお嬢さまでしょう」
気が付くと柾彦の後ろに意味ありげな笑みを浮かべて母の結子が立っていた。
堅物(かたぶつ)の柾彦が女性の姿を瞳で追っている様子に成長を見ていた。
「母上、いつの間に」
ドキッとして、柾彦は、振り返った。
「柾彦さんが見惚れていたから、しばらくそっとしておいたの。
恋愛に堅物の柾彦さんでも恋する年頃なのね。
あれほどのお嬢さまなら恋をしないほうが無理でしょうけれど。
伯母さまに知れたら大騒ぎになってよ。お気をつけあそばせ」
「そのようなことではありません。
図書館で棚から本を取って差し上げただけですよ」
柾彦は、慌てて結子に返答した。
「さようでございますか。鶴久病院も家柄としては申し分ありませんけれど、
桜河のお嬢さまをお迎えするには恐れ多くて自信がございませんわ。
でも、桜河さまとお近づきになれたら、病院の格も上がり大きくできますわね。
我が家には何時連れていらっしゃるの」
結子は、柾彦をからかうように話した。
「だから、そのようなことではありません。
先日の昼食会で少しお話しただけです」
柾彦は、否定するつもりが口を滑らせて祐里との縁(えにし)を語って赤面した。
「まぁ、いつもは昼食会なんて時間の無駄だとおっしゃって出たことが
なかったのに……初恋は人を変えるものなのね。
あのように綺麗な方に看病していただけたら病気なんて、すぐに治りそう。
鶴久病院は、名病院と評判になりますわ」
「母上、ぼくは、今でも堅物ですよ。
さぁ、そのような絵空事よりも、伯母さまがあちらでお呼びですよ」
柾彦は、もう一度、祐里の姿を見つめ、結子の口を塞いで急き立てるように
伯母の側に歩いていった。
結子は、柾彦の微笑ましい恋心を喜んでいた。

