「柾彦さま、私は、姫ではございません。
旦那さまのお供でございます。
只今お知り合いの方とお話をなさっていらっしゃいますの」
「桜河家ともなると、父上のことを旦那さまって呼ぶのだね」
祐里は、返事に窮して質問には答えずに話題を変えた。
「お母さまは、おひとりで大丈夫でございますの」
美術館という公共の場で、男性の柾彦と二人だけで話をするのには
憚(はばか)られた。
「お話好きの伯母と一緒だから大丈夫だよ。
桜河の旦那さまに挨拶しておこうかな。
鶴久病院とのお近づきもお願いしたいし」
祐里は、旦那さまに柾彦をどのように紹介すべきなのか思いあぐねて困惑した。
「柾彦さま、突然にそのようなことをおっしゃられても困ります」
祐里は、真顔で答える。
「姫は、困った顔も可愛いね。冗談だから機嫌を直して」
柾彦は、しばらく祐里の困惑した表情を眺めて
(なんて美しい瞳なのだろう)
と心をときめかせながら快活に笑った。
「柾彦さまは、意地悪でございますのね」
祐里も柾彦の笑顔につられて一緒に笑っていた。
祐里は、柾彦の明朗快闊な性格がとても新鮮に思え、一緒にいることを
楽しく感じていた。
いままで、桜河の名が他の男子と祐里の間に壁を作っていたこともあり、
男子とは親しく話をしたことがなかった。
それに祐里がひたすらに光祐さまだけを見つめて過ごしてきたことも
事実だった。
「そろそろ、旦那さまの元に戻ります。
柾彦さま、お声をおかけくださいましてありがとうございました。
ごめんくださいませ」
祐里は、柾彦の聡明な瞳を見上げてお辞儀する。
「また会える日を楽しみにしておくよ」
旦那さまのお供でございます。
只今お知り合いの方とお話をなさっていらっしゃいますの」
「桜河家ともなると、父上のことを旦那さまって呼ぶのだね」
祐里は、返事に窮して質問には答えずに話題を変えた。
「お母さまは、おひとりで大丈夫でございますの」
美術館という公共の場で、男性の柾彦と二人だけで話をするのには
憚(はばか)られた。
「お話好きの伯母と一緒だから大丈夫だよ。
桜河の旦那さまに挨拶しておこうかな。
鶴久病院とのお近づきもお願いしたいし」
祐里は、旦那さまに柾彦をどのように紹介すべきなのか思いあぐねて困惑した。
「柾彦さま、突然にそのようなことをおっしゃられても困ります」
祐里は、真顔で答える。
「姫は、困った顔も可愛いね。冗談だから機嫌を直して」
柾彦は、しばらく祐里の困惑した表情を眺めて
(なんて美しい瞳なのだろう)
と心をときめかせながら快活に笑った。
「柾彦さまは、意地悪でございますのね」
祐里も柾彦の笑顔につられて一緒に笑っていた。
祐里は、柾彦の明朗快闊な性格がとても新鮮に思え、一緒にいることを
楽しく感じていた。
いままで、桜河の名が他の男子と祐里の間に壁を作っていたこともあり、
男子とは親しく話をしたことがなかった。
それに祐里がひたすらに光祐さまだけを見つめて過ごしてきたことも
事実だった。
「そろそろ、旦那さまの元に戻ります。
柾彦さま、お声をおかけくださいましてありがとうございました。
ごめんくださいませ」
祐里は、柾彦の聡明な瞳を見上げてお辞儀する。
「また会える日を楽しみにしておくよ」

