桜ものがたり

  柾彦との縁はすぐに訪れた。
 
 旦那さまのお供で行った美術館で、取引先の方と偶然に会った旦那さまが

談話室で仕事の話をしている間、祐里は、気を利かせて中庭の散策をしていた。
 
 新緑に包まれた中庭は、陽射しが溢れていた。

 大きな庭石の前で柾彦が笑顔を向けていた。

「姫、また会えたね。こんな所で会えるなんて、やはり縁があるんだね」

 柾彦は、『縁』を強調した。

「まぁ、鶴久さま。こんにちは。奇遇でございますね」

 祐里は、偶然の再会に驚きながら、笑顔でお辞儀する。

「柾彦でいいですよ。

 制服の姫も美しいけれど、今日のワンピースもとてもよく似合って

眩しいくらいです」

 祐里の白いレースのワンピースが、五月の新緑を背景に陽射しを浴びて

輝いていた。

 首元には、光祐さまから贈られた桜の花の首飾りが揺れていた。

「お褒めいただきましてありがとうございます。

 柾彦さまは、おひとりでございますか」

 祐里が話すたびに長い黒髪が風に揺れ、陽射しにきらきらと輝いて、

柾彦の視線を釘付けにしていた。

「母のお供で、少々退屈していた時に、姫をみかけて中庭に出てきたところ

だけれど、姫は、誰と来ているの」

 柾彦は、周りを覗った。祐里の連れらしい人は見当たらない。

 柾彦は、天から降ってきた幸運に感謝していた。