桜ものがたり

「杏子は、小さな時からお調子者だから気にしなくていいよ。

 噂の姫に早速会えて光栄だな」

 柾彦は、女子学生との昼食会には全く興味がなく、誘われても断っていたが、

今回は幼馴染の杏子から「桜河のお屋敷の祐里さまもいらっしゃるのよ」

と聞かされて参加する事にしたのだった。

 柾彦は、自己主張ばかりの鼻持ちならないお嬢さま方が苦手だった。

 初めて見かけた図書館といい、今日といい、祐里は、控えめで可憐であった。

「何か悪い噂になってございますの」

 祐里は、心配顔で柾彦を見つめた。

 柾彦は、そんな祐里が可愛く思えた。

「我が校では、車窓の美女で有名だよ。

 送迎の守りが固くて誰も姫に声をかける事が出来ないって」

 柾彦は、大袈裟な身振りを交えて話した。

 祐里のすぐ横で話ができるとは舞い上がる気分だった。

「まぁ。私は、そのような御伽噺のお姫さまではございません」

 祐里は、慌てて否定すると恥ずかしげに俯いた。

「その証拠に、ほら、何人も姫に視線が釘づけですよ」

祐里は、柾彦に促される形で周囲を見回し、それぞれの視線に穏やかな

会釈を返した。

「姫は、不思議なひとだね。

 初めて話すのに以前からの知り合いのように安心する。

 一緒にいるだけでしあわせな気分になるよ。

 ぼく的には、姫を解剖して分析してみたい」

 柾彦は、大袈裟に顕微鏡を覗く格好をしてみせる。

「お医者さま的なお考えでございますのね。

 心の中まで見透かされているようで恥ずかしゅうございます」

 祐里は、恥ずかしげに制服の上から胸を押さえて隠した。

 そのしぐさに柾彦は、ますます好感を持った。

 祐里の席には、次々に洋菓子と飲み物が自己紹介と共に届けられた。

 祐里は、にっこり笑って御礼の言葉を返した。

 柾彦は、祐里の横にいて、他の男子学生との会話をより楽しくさせて

くれていた。

 祐里は、少しずつ柾彦に打ち解けていった。