運命の、その場所で


朝になって、私はナチに借りた服を着て家に帰った。


家の合鍵を取り出して、ゆっくりと差し込む。

―ズボ…ガチャ。


でも、扉を開けるのが怖かった。


ナチの言うとおり、私がこの家からいなくなってしまえば…


だけど、でも…この家にいても、もうママからは愛情なんて注がれないのに…

必死にパパやお兄ちゃんを守っても…隣にはずっと知らない男がいるのに…


「どうした?怖い?」

動かなくなった私を心配したのか、ナチは隣に来てくれた。


「結局私はひとりなのかな?」

「は?」

「この扉を開けても、もう知らない人の匂いで埋め尽くされてる。
ママのお気に入りの香水も…もう使われることはないんだ…
パパがくれた香水だったのに…。」

考えれば考えるほど、涙がまたあふれ出ちゃう。

「ママは、もう私のこと愛してはくれないんだ。
新しい子供が、本当の子供なんだよね。」


「バーカ!俺がいるじゃん?ひとりじゃねーよ。」

そう言いながら、私の流した涙を一粒一粒すくいとってくれた。


ナチ…もう、ハッキリしてほしい。

私のこと、どう思ってるのか…

ただの遊びならもう…これ以上優しくしないで…。

あきらめられなくなっちゃうよ。


その優しさが、支えになってしまえば…
私はナチを離れられないよ?