「初めまして」

SAMURAIの定位置、一番奥の中庭が見える特等席。俺は何時もそこに座る。
今日も、特に意識せずに其処に座った。

約束の一時間前に。

「は、初めまして」

緊張で口から心臓が飛び出るかと思った。
嘘、約束では朝の10時にSAMURAIで、って話で、今は一時間前で、落ち着かなくてソワソワした俺は早めに家を出て一時間前に着いちゃった訳で…。

「何か落ち着かなくて一時間早く来たら、もう居るから驚きました。赤井の言う通りの席で直ぐ見付けましたよ」

何て笑顔でこっちを向くんだ。

「あ、否、わ、私も落ち着かなくて早く来ちゃって…」

緊張と、驚きと、色んな物が混ざり合って俺の声が震える。

「会えて嬉しいです、霞さん」

この笑顔に勝てる奴。誰か居たら教えてくれ。

シローさんは、確かに狼先生とは全く雰囲気の違う出で立ちだった。服装はと言えば、あっちゃんと似たり寄ったりのパンクロックベースに少し落ち着いた感じのアクセサリーで、何となく渋い感じもした。

「霞さん、今日はスカートなんですね、似合ってます」
「ああああ、有難う御座いますっ」

慣れない、女の子扱いにテンパりまくりだ。仲の良い店員がクスクス笑ってるのが少し見えた。
駄目だ、恥ずかし過ぎる。

「あの、取り敢えずシローさんも座って下さい」

やっとそれだけが言えた。
すると、シローさんはそうですねと落ち着いた表情で微笑み椅子に腰掛ける。

「あ、あの…シローさんは何で…その…私に…」
「ああ、赤井に例のボランティアに誘われて作業中を何度か見学に行ったんです。それでその時に霞さんを…」

ギャー!何て事だ。
作業中の俺、つまり作業着の俺、つまりあのバリバリヤンキー臭いツナギ姿を見られたのか!

「あの、私の一体何処が…」

「作業中の霞さん、凄く活き活きしていて楽しそうでした。本当に、とても良い表情だったから…ずっと気になってたんです」

な、なん、だと!?
そんな風に思われるとは、何かもう恥ずかしくて視線を飲みかけの紅茶から外せなくなる。

「理由は他にも有るんです」

「え」

「赤井から聞いたんですけど、『嗤い屋 藤堂』ってご存知です…よね?」
「大好きです!!シローさんもご存知なんですか!?」

思わず食い付いてしまった。
嗤い屋藤堂とはかれこれ五年前に某出版社の新人賞を受賞した作品で、滅茶苦茶面白い時代劇だ。