「薬はいらないって言ってたぞ」

 飲んだら余計に気分が悪くなるとも。
 付け加えられた一言。
 翻訳するなら「ラバスは来るな」ということだ。
 「……なんだよ、それ」
 「流石のリナも疲れたんだろう。今夜はお前のリップサービスの助手は嫌だってことじゃないのか?」
 ビールを飲むダイの軽い言葉に、眉を軽く上げる。
 「助手なんか頼んでないけど?」
 語外に、疲れさせた覚えないはない、と告げるとダイは呆れた顔でラバスを振り返った。

 いつも、リナを引き合いに出すのは、それなりの理由がある。
 ダイやガリオルが居ないにも関わらず、リナは酒場に顔を出すことが多い。
 それは、彼女なりに自分の目的の情報を聞き出そうとしているのだろうが、その姿はどこか危なげに見える。
 だからこそ、つい用もないのに酒場に入り浸り、何かありそうになるとそれとなく声をかけて他の客に注意を促すのだ。

 「だったら余計に構うな。あいつはそれほど強くもないけど、弱くもない」
 花瓶に水を入れて、階段を登る。
 普段、冒険者のような旅をしているおかげで花瓶の中の水は少しも揺れない。
 多少の物音でも耳の良いものは目を覚ましてしまうだろう。そう思って、気配をけして目的の部屋に近づく。