暑苦しい夜には、ひとり部屋に居る方が良い。
 こうやって大勢の人の集まる酒場にいても、暑さが増すだけだというのに。

 「薬師さん、足の薬って、日持ちがしないでしょう?」
 宿屋に入った瞬間に、熱視線を集めてしまったのは、仕方がない。
 けれど、それがこんなに夜遅くまで長引くとは思わなかった。
 (夏祭りの踊り子といっても、まだ少女集団だしなぁ)
 誘う、というよりも憧れの思いの強い視線にラバスは内心ため息をつく。
 「そうだな。傷薬と違って、疲れを取るためのものは、作り置きが出来ないし」
 「そうなの! でも、疲れているとその薬を作ることすら面倒になってしまって……今夜、薬師さんが宿屋に来てくれてよかった」
 ニッコリと微笑む傍らの少女に微笑みかけてから、ラバスは2階から降りてくる仲間の姿を目に留める。

 「? リナは?」
 しかし、その後ろからいつも覗く顔がないことに首をかしげると、ガリオルは肩をすくめて首を振った。
 「気分が悪いんだと」
 ラバスの周りが埋められているためか、ガリオルはリーダーであるダイの傍に腰を下ろした。
 「さっきまで、腹へったって騒いでた奴が?」
 面白そうに笑うダイに、それならと立ち上がろうとラバスが動く。
 一応、パーティの仲間の具合が悪いなら、そこらの少女たちより優先させるのは当然だろう。
 しかし、それは今降りてきた仲間に止められることになる。