気分が悪いんじゃなかったのか?
 そう聞かれて、思わず返答に困ってしまう。
 「……花瓶に水入れようと思って」
 気分の方は、無視して花瓶の方を説明する。
 けれど、ラバスは更に眉をひそめた。
 「なんで、花瓶に水?」
 「……花瓶が倒れて、水がなくなったから」
 暗いから、服がぬれていることまではわからないだろうと、リナは最低限わかる部分だけを説明する。

 「ふーん。……それじゃぁ、そのときに水かぶったわけだ」

 けれど、相手は人の観察力・認識力・その他変に聡くなければ務まらない薬師。
 「別にいいじゃない。冬じゃないもの。風邪ひくわけでもないし」

 ひどくラバスの言い方に棘を感じて、リナが言い返すと、ふわりとリナの肩に薄いショールをかけられる。

 「夏だ夏だといっても、夜はもう涼しいだろう。油断してると、本当に体調崩す」
 「油断なんかしないわよ。すぐに着替えるつもりだったもの」
 「そこで、すぐに着替えないところが油断してるって言うんだ」

 「……そんなこと言うために降りてきたの?」

 そうリナが呟くと、ラバスは「まさか」と即答した。
 「物音がして、足音が軽かったから、踊り子の誰かが足の痛みを冷やしにでも降りてきたのかと思って」