「よいしょっと……」
 井戸の水をくみ上げ、花瓶の中に水を入れる。
 少し汗をかいていたことを思い出して、もう一杯水を汲み足にバシャリとかけると、ひんやりとした風がぬれた足に当たって涼しい。
 (喉も渇いているんだけど……ここの水は飲めないよなぁ)
 この国では、人が飲める水にするためには水晶の入れ物で一晩水を置く必要がある。その代わり、水晶の浄化作用で、雨水でも海水でも川水でも、一晩置けば飲み水へと変化するのだ。
 (ひとつ方法がないわけじゃないけど)
 しかし、そんなことをしている暇がいつもあるわけではない。そんなときに人々が利用するのが「薬師の祈り」なのだ。
 (でも、起こすなんてしたくないし)
 野宿の時には、リーダーが喉が渇いたとうるさいので、薬師が寝る前に好きなときの飲めるように水を用意しておいてくれる。だからつい、水晶の筒に水を常備しておくのを忘れてしまったのだけど。
 (一晩くらい、いいか)
 しかたないものはしかたない。
 そう割り切って、足元の花瓶を持ち上げ、振り返ったところで足が止まった。
 ついでに、息まで止まった。

 「リナ?」

 無駄に声と顔と腕だけ良い薬師ことラバスがリナの後ろの木陰から井戸の方を見ている。
 「こんな夜中に、何やって……?」