「船長、危ない! 後ろです!!」

 ジョン・マークの叫び声が耳に入り、レイズは振り返り自分の剣をかざした。再び剣が混ざり合う音が聞こえる。

 どいつもこいつもなぜわからない…! これ以上血を流して一体何になる?
 
 レイズに襲い掛かった男は力負けしてデッキに投げ出された。

 一息ついて周りを見渡せばみな必死で戦っている姿が瞳に映る。

 早く終わらせなければ…。

 そう感じながらレイズも再び足を進めた。

 その頃、船首にいるレイズと離れた船尾ではウォレンが同じように戦闘を繰り返していた。

「こんな意味のない戦いなどやめろ!」

 その言葉を聞いた男が振りかざした腕が止まる。視線を足元に落としたあと、それでもゆっくりと顔を上げる。

 ウォレンと視線が重なり合った。その瞳には何にも変えがたい悲しみが溢れているように感じられる。

「…そういうわけには行きません。私には家族がいるのです」

 静かにそう言い放った男は、腹の底から絞り出したような声を上げウォレンに剣を振り下ろした。それを受け止めたウォレンはそのまま状態を低くし男の脇に飛び込んだ。

「ッ…!!」

 男は声にならない声を上げ、よろよろとした足取りで壁にぶつかった。そのままペタリと座り込んだのを見届けたウォレンは、やりきれない思いを抱えながら次の敵へと向かう。

「そこで気を失ったフリでもしていろ」

 途中振り返り、男にそんな言葉を投げかけながら。

 座り込んだ男の頬には一筋の涙が流れた。




 敵船が現れた方向とは反対側に位置するキャビンで、フィスは一人息を潜めていた。

 窓の外は先ほどと変わらず平穏そのままだというのに、デッキでは酷い戦闘が行われているのだろう。

「神様…」

 小さく呟き、両手を組む。

 そのときドアの向こうで言い争っている声が聞こえた気がした。

 何…?!

 鼓動が跳ね上がる。

 言い争う声、剣が交じり合う音、数人の足音、そして定期的に聞こえる不思議な音。

 何の音…?

 すべての音がどんどん近付いてくるのがわかる。じわりと汗が滲んだ。

 何かと何かがぶつかり合う音…。なんだろう? 何がぶつかっている?

 瞬間、一際大きな音が聞こえた。

 わかった…! キャビンのドアを一つ一つ開けて中を確認してる音だわ!

 音はどんどん近付いている。争う声もはっきりと聞こえる。