急旋回したディックバードの隣に平行して現れたのは大きさもさほど変わらない、船体に赤いラインを持った船だった。

 海上で青いラインと赤いラインが並ぶ。飛び移ろうとすればすぐにそれができるような位置で両方の船は速度を落とした。

 まるでこちらとは対照的なその船は、リブレフォールの若き国王アレンが指揮をとるスコールド号だった。

「やってくれるな、アレン! 俺のディックバードをあんな目にあわせるなんて」

 レイズが叫ぶ。

「おお、派手にいったな。本当はすぐに沈めても良かったのだが、最近剣の腕が鈍り気味だから少し練習させてもらおうと思ったのさ」

「よく言うよ。お前が俺に勝てるとでも?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ。この若造が!」

「たった五つしか違わないのに、俺は若造か。随分年をとったもんだな」

「レイズ、俺は今日お前のその減らず口を叩き潰しに来たのだ。覚悟しろ」

 アレンは自分の剣を抜き、その先端をレイズに向けた。レイズもまたそれに応戦する形で手に持っていた剣の先をアレンへ向ける。

 アレンの背後にも、レイズの背後にも武器を手にした仲間たちが待ち構えている。

 ディックバード号が少し不利なのは、突然の出来事だったために皆の心構えが甘いところにあった。

 アレンがディックバードを狙っているのはもう随分前からの話しだったし、今までだって何度も同じような戦闘を繰り返していた。今回も情報を得てはいた。しかしこんなところで突然襲われるとは意表をつかれたとしか言いようがない。

 実はポート・ウェインを出たときからいくつか港を回ったが、レイズは船員たちにずっと警戒を促していた。どんなことがあってもすぐに戦闘準備に入れるよう指示していたのだ。

 それがこんな様だ…。

 次に寄港する場所はディストランド。

 出航した港町からはそんなに遠くない場所にディストランドは存在する。つまり出航後数時間が経過しているこの場所は、リブレフォールにとってはほぼ敵陣であるということ。

 そんな場所で仕掛けてくるはずがない、という全員のほんの少しの気の緩みがレイズの指示を不完全なものにし、そして見事なまでにその穴を突かれてしまったのだ。

「さて…。腕試しだな。かかれ!!」

 アレンの言葉に反応したすでに兵と化したスコールド号の船員たちが一斉に剣を上げる。ウェイ・オンやジョン・マーク、ロッドたちも負けじと声を張り上げ、スコールド号へ飛び移った。

 剣の交じり合う音とたくさんの声が交差する。さっきまで平和だったディックバードとはまったく正反対だ。次から次へと振りかざされる剣を潜り抜け、レイズはアレンのいる場所を目指していた。