「私の行動にあなたが指図するのはおかしいわ」

「俺はこの船の船長だ」

「それでも、これは賭けだもの」

「何をそんなに拘ってる? 意地を張るな」

「ねぇ、あなたもあのメインマストに登ることがあるんでしょう?」

「そりゃあな…俺は登るさ」

 ふとフィスの横顔が沈んだように見えたのは気のせいだろうか。

「フィス?」

「あなたが見た同じものを見てみたいの。多分、この先ずっとこんな風に自由に暮らせる日が来るとは思わない。だから、今できることをしておきたいし、あなたが見たものと同じものを同じ目線で見ておきたいの」

 それはフィスの素直な気持ちだった。一瞬レイズの言葉が詰まる。

「そんなもの…お前が今見ているものが、俺と同じ目線で見ているものだろう。何も変わらない」

「そうかしら」

「お前はいつも考えすぎだ」

 それだけを言い残してレイズは背中を向けた。

 何を、言ってるんだろう…私。バカみたい。

 そう感じながらフィスは目を閉じた。聞こえてくる潮騒の音。身体に伝わる波のうねり。そのすべてにレイズを感じていた。

 レイズに対するこの気持ちはもうそろそろ捨てなければいけない。だから私は勝っても、負けても、自分の気持ちに区切りをつけるために賭けをしたのだ。

 私は、オルドアの姫。国を守るために結婚を控えている身なのだから。