「本当のことを話したのか?」

「本当のこと?」

 レイズは落としていた視線をウォレンに向けた。

「自分がディストランドの王子だって」

「なぜ話す必要がある?」

「お姫様は望まない結婚を控えて落ち込んでる。その相手がお前だと知れば光が見えるんじゃないのか?」

 レイズは鼻で笑った後、手に持っていた本をテーブルの上に置いた。

「ウォレン、俺が目指しているのは結婚などせずにディストランドを守ることだ。だからフィスには伝えてある。望まない結婚などしなくてもいいようにしてやると」

「お前はそれでいいのか?」

「…愚問だな。俺はただ国を守るためだけに、それから望まない政略結婚などしなくてもいいように動いている。お前が一番それを知っているだろう」

 そう言ってレイズは席を立つ。キャビンの外に出ようとしたとき、思いついたように彼は振り向いた。

「それからわかっていると思うが、フィスがオルドアの姫だということは他言無用だそうだ。ディックバード号(ここ)にいる間は普通の人として過ごしたいと。お前にも伝えてくれと言われたから、一応伝えておく」

「了解」

 ウォレンは右手を軽く上げながら頷いた。

 扉が閉まりレイズが姿を消すと、ウォレンはタバコに火をつけしばし考える。

 お互い惹かれあっているならばそれでもいいと思うが…そういう訳にもいかないようだな。

 それはディストランドという国を失くしたくないという、ディストランド王子としてのプライドか、それとも『政略結婚』と皆に思われることに嫌悪感を感じるレイズ個人としてのプライドか。

 どちらも微妙なところだ…。

 レイズのいなくなった室内でウォレンは一人、笑みを浮かべた。