パーティ会場でウォレンは、隣に座った途端こう言った。

『誰なんだ?』

『誰…ってどうして?』

 ウォレンはそれ以上何も言わずに、ただグラスを傾け続けた。その沈黙に耐え切れず、フィスは口を開いた。

『そんなこと聞いてどうするの? 私は何の肩書きもないただの人間よ。あなたがそれを聞いたってどこの家の娘かなんてわからないでしょ? わかったとしたってどうしようもないわ』

『なんの肩書きもない…ね』

『ええ、そうよ』

『ただの町娘が、好きでもない婚約者と結婚を控えてる? おかしな話だ』

『家の事情よ。そういうことだってあるわ。それに好きでもないっていうのは余計よ。私はその方を大切に思っています』

『どんな男なんだ? まさか顔を知らないなんてことないだろうな?』

『…知っています!!』

 ディストランドの王子の顔など一度も見たことはないのに、ウォレンの挑戦的な言葉に思わずフィスはそう答えた。

『ほう…。いったいどんな男だ?』

『とても…優しくて、私のことを愛してくれて…』

『それから?』

『それから…私より少し背が高くて…あ、でも体格はとてもがっちりしているわ』

『レイズとは似ても似つかないな』

『ええ、そう…って、どうしてそこでレイズと比較するのよ!』

『いや、別に』

 ウォレンは意味深な笑みを湛えながら、それでもそのすぐ後には何かを考えるような真剣な顔を見せた。

 何かを知ってる…?

 それを聞こうと口を開きかけたとき、ザイラスが再び戻ってきた。ウォレンと握手を交わし、腰を下ろす。そのまま時間は過ぎ、パーティは終焉を迎えた。