ただ呆然とするしかなかった。

 自分が望んでいるはずのない、『国を守るため』だけの結婚。拒んで、拒んで、それでも拭いきれず、ならば結婚が必要ないように自分が動いてこの情勢を変えればいいのだと信じてここまで来た。

 ディストランドの王位継承者としてレイズが選択できる道はたった二つだけだった。

 オルドアの姫と結婚した後、ディストランドとオルドアを一つの国とし、リブレフォールを封じるか、または何らかの方法でリブレフォールを封じオルドアの姫との結婚話をなかったことにするか。

 先が見えないのは後者だった。それでも、その未来を自分で切り開こうとしてきた。

「…くそっ!」

 レイズの右足がテーブルを思い切り蹴飛ばした。先ほどまでウォレンが座っていたソファにぶつかって止まったテーブルは、上にあった灰皿まではコントロールすることができず、床に吸殻が散らばる。

 オルドアの港でフィスを見かけたとき、遠い昔の記憶の中の『彼女』を思い出した。そして新しい世界を見せてやりたいと思った。

 『彼女』にしてあげられなかったことをフィスにしたいと思ったのは、フィスが『彼女』にほんの少し似ていたからなのかもしれない。

 フィスは『彼女』よりもずっと明るくて活発なように見えるし、でも時々常識を知らないところもある。だけどそのすべてが新鮮に見えていたのは確かだ。

 色のなかった『彼女』がフィスを通して健康的な色を取り戻し、明るい笑顔を取り戻していく。それが嬉しくて、愛しくて。ふと気付いたら『彼女』という存在を通して見ていたはずのフィスを、そんな厄介なフィルターを通さずに見ていた自分がいた。

 それなのに、だ。俺が進もうとしている道は、どこだ―――?