「レイズ船長。昨日はとても良い夜を過ごせました」

「ああ。我々もそう思っている。本当に毎回感謝している」

「ここから先の旅、どうぞご無事で」

「ザイラス殿も、元気で」

 昨日の夜といっても、結局今日の朝方まで皆広場で楽しんでいたのだから、そんなに大げさに言うことはないと思うのだが、二人の固い握手が交わされたところで周りからは拍手が沸き起こった。

「では、またこのポート・ウェインに立ち寄るのを楽しみにしている」

「はい。我々も首を長くして待っております。おい、ユナ! 何か言うことはないのか? レイズ船長がお帰りだぞ」

 ザイラスが人ごみの中から娘を探し出し、レイズの前に立たせた。

「気をつけて、レイズ」

「ああ。ありがとう」

 そう言ってレイズは笑顔を見せた。

 だから、その笑顔が罪なんだと思うんだけどなぁ…。

 そんなことを考えていると、ふいにユナに呼ばれる。その笑顔は初めて会ったときと同じように美しい。

「フィス様も、お気をつけて」

「…はい。あなたも、お元気で」

 ユナは『それだけでいいのか?』としつこく聞く父に苦笑いしながら、人の輪の中に戻った。その後姿は心なしか寂しそうにも見えて。

 でも。あなたには、未来があるから―――。

 そんな風にフィスは考えていた。

 自分にはレイズと結ばれる日などやってこないのだ。気付いてしまったほんの少しの気持ちを抑えながら、それでも彼の近くにもうしばらくはいなければならない。それは、どちらの方が辛いことなのだろうか。