「フィス様も、レイズ様に恋をされましたか?」

 ふいにジョン・マークが言った。

「何を言っているの。そんなことはありません!」

「そうですか。レイズ船長のことを考えるフィス様の瞳は、恋する女性の瞳に似ているものですから」

 ウェイ・オンはその様子を見てニヤニヤと笑っている。

「ですから、そういうことはありません! 私には婚約者がい‥」

 しまった、と思ったときにはもう遅かった。

 必死に口を手で覆っても、隠れたのは言葉の語尾だけだった。

 二人とも驚いた顔をしてフィスを見つめている。

 その二人の向こうに、小さくではあるがレイズの姿が見えた。時折楽しそうな笑い声が風に乗ってここまで運ばれてくる。彼のいるところにはいつも笑顔がある。

 誰よりも、彼のことを求めてしまっているのは自分なのだ。

 フィスはようやく気付いた。いや、本当はもうとっくに気付いていたのだ。ユナと親しく話している彼を見るたび、もやもやと胸に引っかかるその思いの理由に。

 そうだ。私は―――――。

 再び風に乗って声が聞こえてくる。屈託のない笑い声。

 風に乗せて。叶わないこの想いも、一緒にどこかへ飛ばしてくれたらいいのに…。