「お嬢さん?」

 ウェイ・オンがフィスを呼んだ。

「大丈夫ですか?」

「…ええ。大丈夫よ。ねえ、それより聞きたいことがあるわ。なぜ、この町はこんなにもディックバードを歓迎するの?」

「ああ、それは何も聞いていらっしゃらないのですか?」

 フィスは言葉を発せずにただ頷いた。ジョン・マークが語り始める。

「あれは三年ほど前の今と同じくらいの時期でした。レイズ船長が二十歳でディックバード号の船長になり、一年程が経った頃のことです。ディックバードは年に二回このポート・ウェインを訪れるのですが、初めて来たときに随分とこの町を気に入ったらしく船長は二回目の訪問を心待ちにしていたようです。ディックバードがこの町に寄港しようとしたとき、港にはもう一つ大きな船が停泊していました。まあそれはいつでもあることですから私たちはさして気にも留めていなかったのですが、船長が何かがおかしいということに気付いたのです。先に停泊していた船は、まぁ俗に言う『海賊』だったんですが、それがまた性質の悪い奴らで、この町を自分たちのものにしてしまおうと企んでいたらしいのです。特にこの町は他の国に属していないので狙いやすいとでも思ったんでしょう。私たちは一部の船員を船に残して、それ以外は武装を命じられ町に入って行ったのです。町は酷い有様でした。ポート・ウェインの人間がやつらにいったい何をしたというのか。そして船長はこの町を救うべく動いたのです。そのときに船長に助けられたのがこの町の町長のザイラスで、その娘がユナ様なのですよ」

「その一件でポート・ウェインはレイズ様…っと、レイズ船長とディックバード号を大歓迎するようになったって話さ」

「そう…。そうだったの」

 嵐の夜からわかっていた。誰かを、そして何かを大切に思い、それを必死に、時には自分の命さえ賭けて守りたいというレイズの気持ちは。

 その気持ちが一つの町を救った。レイズの起こす一つ一つの行動に感嘆の意を覚えるほかない。