「ねえ、それより。あれはどういうこと?」

「何が?」

「レイズが連れてたお姫様よ」

「ああ、フィスか」

「…やっぱり」

 その名を聞いて、セイラは自分の考えが間違っていなかったことにそう呟いた。

「何が」

 考え込んだ一瞬の時間を邪魔された彼女は、突然キッとウォレンを睨み付ける。

「何が何がって、さっきから何よ?!」

「何よって、お前が訳のわからないことを言うからだろ」

「え…?」

 セイラは小さく「嘘でしょ…」と呟くと、ウォレンの言葉に再び考え込む。そしてゆっくりと視線を上げる。ウォレンはその姿を不思議そうに見つめていた。

「本当に知らないの?」

「だから‥」

「あのお姫様、オルドア国王の三女よ」

 声も出なかった。ただその代わり、口から離したタバコの先端からポロッと灰のかたまりが崩れ落ちていく。

「口、開いてる」

「あ…? ああ。今、何て?」

「だから、あのお姫様、オルドア国王の三女なんだってば。それ知ってて連れてきたんじゃないの?」

「まさか…」

 あまりにも驚いた顔を見せるウォレンを見て、セイラは大きな溜息をつく。

「まったく。まさかって言いたいのはこっちの方よ。オルドアはもうすぐ動くわよ」

「けど娘が行方不明だというのにどうしてすぐ動かない? 三人の内の誰が花嫁候補かは知らないが、結婚を控えてるかもしれない大事な娘だろう?」

「あの娘(こ)が丁寧に手紙を書いていったらしいわよ。『すぐに戻ります』って。ディストランド王子との結婚は政略結婚で、三人の娘たちはかなり動揺したみたいね。で、結局三女がそれに同意せざるを得なくなったって話よ。国王はそれを受け入れなければならなかった娘の気持ちを案じて、そのメモ書き程度の手紙の言葉を信じてるらしいわ。だけど日が経つにつれて周囲からリブレフォールに誘拐されたんじゃないかっていう話が出てきていて、今行動を起こすか起こさないかで揉めてるみたい。でもどちらにしても間違いなく近いうちに動くわね。どうするの? オルドアの姫だとは知らずに連れて行ってしまいましたって話す?」

「そんなこと‥」

「できるわけないわね」

 そう言ってセイラは楽しそうな笑みを見せた。