「ところでお父上は元気でやっているのか?」

「ええ。あなたが来たと聞いてすぐさまパーティ会場へ向かいました」

「そうか。それは良かった」

「あなたに救っていただいた命ですもの。大切にしてもらわなくちゃ」

 これって、つまり恋人同士の会話な訳? あぁ、頭が痛い。私には一生縁のない話ね。

「ごめんなさい。すぐに灰皿を用意するわ」

 レイズがタバコに火を付けたのであろうタイミングでユナが言う。

「ああ、ありがとう」

「私ったら気が利かなくて」

「いや、大丈夫だ。もっと気の利かない女がそこにいるから」

 ん…? それって…?

「何ですって?!」

 レイズの言葉の後、フィスは思い切りカーテンを開けて彼を睨み付けていた。その形相に驚いたのか、レイズもユナもぽかんとした表情でフィスに視線を向ける。そしてレイズのその顔は、次第に意味ありげな笑顔に変わっていった。

「何よ?」

「いや、別に」

 むかむかしながら睨み続けていると、彼は諦めたように言う。

「馬子にも衣装だな、と思って」

「どういう意味?!」

 さらにヒートアップしたフィスを見かねてユナが口を挟む。

「フィス様、とてもお似合いですよ。あまりにフィス様がお綺麗なので、彼も驚いたんでしょう。そういうことを素直に言えないのがレイズなんですよ。あまりお気になさらずに」

 そんなこと…! そんなことくらい私だって少しくらいはわかってるわよ! 

 なぜユナにまでむかむかするのかわからないまま、フィスは込み上げる怒りを一生懸命堪えていた。

 レイズのバカ!! 大嫌いだわ!

 フィスの声に先ほど奥に下がった女が足早に戻ってきた。

「今着ている服はそのまま着ていく。それからとりあえずこの服の前に着た3着と最初に着たものを、今日中にディックバードへ運ぶように手配してくれ」

「はい、かしこまりました」

 女はそう答えると、準備をしに再び奥へ戻って行った。

 その後はレイズがどのように会計を済まし、自分を連れてどうやって店を出たのかもよく思い出せない。気付くとフィスは店に来たときと同じように、彼の背中を追いながら歩いていた。