レイズが言ったとおり、ディックバード号は夕方には小さな港町に到着した。この町に停泊する理由などもわからないまま、フィスはレイズの後を追うような形で久しぶりに陸に降り立った。

 そういえば、ディックバード号って一体何のための船なのかしら。

 そんなことも聞かないまま、フィスはこの一週間を過ごしていたのだった。ディックバードに乗り込んでから数日間はまだ船員たちにも慣れていない状態で、その後には大きな嵐を迎えていたことを考えれば無理はないのかもしれないが、それでもそれくらいは知っておいても良かったはずだ。

 まあ、いいか。後でレイズに聞こう。

 とりあえず今はそんな基本的なことを聞く状態ではなさそうだった。なぜかわからないが、とにかくディックバードの到着はかなり歓迎されているらしい。港に降り立った瞬間から、数え切れないくらいの人がレイズの周りに集まってくる。

「レイズ、待ってたよ! 今日は久しぶりに朝まで飲み明かそうぜ!!」

「レイズ、お帰り!」

「遅かったから心配したよ。無事着いて良かった」

「昨日の嵐でやられたかと思ったわ。でもまさかレイズ船長がそんなへましやしないわよね」

「会いたかったわ、レイズ! 相変わらずいい男ねぇ」

 そんな言葉たちの洪水に、レイズは笑顔で答えている。どうやらこの港町ではレイズは有名人らしい。

 ふと視線を向けると、ウォレンもレイズと同様大歓迎を受けている。しばらくその場から動けない状態が続いたが、レイズが足を進めるとようやく船員たちも町に向かって歩き始めた。フィスも人ごみの中、レイズの背中を見失わないよう足を進めた。